幕末志士◆愚痴すれつど　其ノ伍

260 ：名無しさん＠お腹いっぱい。：2019/02/28(木) 21:35:11.87 ID:Z/1jsL1e.net

己（オレ）が坂本なら、だが……。


坂本はかねてより思案していたはずだ。
活動をしていくうえで最大の懸念、それは言うまでもなく“身バレ”だ。

『幕末志士』を長く続けていけばいくほどその可能性は高まっていく。
いつかはそれが起こってしまう……。

だが、坂本といえどもそれを防ぐ確実な方法はついぞ思い浮かばなかった。

そして訪れる2.19事変――。
そこではまったくの別人が坂本として晒されていたのだ。

坂本はすぐさま事態の収拾のため動き出そうとする。
後手に回っては騒動は拡大し続け、取り返しのつかないことになりかねない。

が――、ここで坂本、天才的閃き。
まさに悪魔的発想――。

��こいつを坂本にしてしまえばいいのではないか��

そう。
身バレを完全に防ぐ方法、
それは“身バレする前に身バレしてしまう”ことだった。

あえてこの事態に対して下手な対応をとり、あれは本当に坂本なのだと思わせる。
いっぽうで、そうした怪しい言動をとりながらも「別人だ」と明言はしておく。

これで愚民どもは以後延々とその身代わりを追うことになるわけだ。
後々に万が一、その人物が坂本ではないとはっきり確認されたとしても問題はない。
なにしろ別人だと明言はしているのだ……。

無論、こちらにダメージが無いわけではない。
むしろ多大なダメージを被ることになるだろう。

だが、スルーや完全な否定をしたところで疑う者は疑うのだ。
その比率の変化に過ぎない。

そして、今後の活動を長期的視野で見た場合、
最大の懸念事項がこれでクリアできてしまうのはあまりに魅力的だった。

ある種の賭けになるとは自覚しつつも、坂本は決心した。

坂本の本当の顔を知る身近な者には、この事態に対してスルーないしは曖昧な態度でいるようにと急ぎ通達。
数日後の放送での怪しい態度、その塩梅も重要だった。
西郷との念入りなリハーサルもしなくてはならない。


坂本の策、ここにありきといったところか……。